タイ製造工場の現地調達ジレンマ ~政府の甘い罠と企業の苦い現実~

【タイEV製造の現実】現地調達45%の「甘い罠」?日系企業が直面する”苦すぎるジレンマ”と生き残り戦略

皆さん、こんにちは!タイで製造業に携わる皆さん、最近、こんなモヤモヤを感じていませんか?

「またBOIが新しいインセンティブを打ち出したぞ…」
「現地調達率40-45%達成で法人税50%減税2年追加だって?」

2025年12月現在、タイ投資委員会(BOI)からのこの発表に、「またか…」と苦笑いしている方も多いのではないでしょうか。政府は「30@30政策」として、2030年までに自動車生産の30%をEVにするという大きな目標を掲げ、必死に国内サプライチェーンを育てようとしています。

しかし、長年ピックアップトラック王国として栄えてきたタイが、今や中国EVメーカーの”遊び場”と化している現状を見ると、長年この地で培ってきた日系企業としては、複雑な心境ですよね。

今日は、このタイの製造業、特にEVシフトの真っ只中で、日系企業がどんな現実と戦っているのか、皆さんと一緒に深掘りしていきたいと思います。

なぜ今、現地調達が叫ばれるのか?政府の「30@30政策」の裏側

タイ政府がここまで現地調達にこだわる背景には、明確な国家戦略があります。

タイは伝統的に自動車生産大国でしたが、EV化の波に乗り遅れるまいと、「30@30政策」という野心的な目標を掲げました。これは、2030年までに国内で生産される自動車の30%をEVにするというもの。この目標達成のため、国内にEV関連産業を根付かせたい、という強い思いがあるのです。

BOIが提示するインセンティブは、まさにそのための強力な”誘惑”。

  • 現地調達率40-45%達成で、法人税50%減税が2年追加!
  • さらには、EV輸出1台が国内生産義務の1.5台分にカウントされるという新ルール(2025年導入)も、輸出志向のメーカーにとっては大きなメリットに見えます。

政府としては、「みんなでタイをEV大国にしようぜ!」と旗を振っているわけですが、まるでパーティーの主催者が「持ち寄りでお願いね」と言っているのに、ゲストの半分がまだ空手で来ているような、そんな状況が目に浮かびます。

現地調達の「甘い誘惑」と、見過ごせないメリット

この「現地調達率アップ」には、もちろん魅力的なメリットがたくさんあります。

  • 輸送費のカット: 部品を海外から運ぶコストが削減できます。
  • 為替リスクの回避: 為替変動に左右されにくくなります。
  • BOIの税優遇: これをフル活用しない手はありません。
  • 「Made in Thailand」認証: ブランド価値向上や、輸出時の優遇にもつながります。

特に、中国勢の動きは速いです。BYDやGWMといったメーカーは、ラヨーンに大規模工場を建設し、既に現地調達率47%超えを達成していると自慢し、ASEAN輸出ハブとしての地位を確立しようとしています。彼らは、このインセンティブを最大限に活用し、競争力を高めているのです。

これが”苦すぎる現実”!日系企業が直面する3つの壁

しかし、この「甘い誘惑」の裏には、日系企業が頭を抱える”苦すぎる現実”が横たわっています。

1. 品質と技術のギャップ

EVの心臓部となるバッテリーセルや、高度な制御を担う電子制御ユニット(ECU)など、高精度が求められるEV部品の多くは、残念ながら現地サプライヤーの品質がまだ追いついていないのが現状です。無理に現地調達率を上げようとすれば、不良率が急上昇し、納期遅延を引き起こし、最終的には顧客からのクレームの嵐に繋がりかねません。

2. サプライヤー基盤の未熟さ

2025年のデータを見ても、EV部品の現地調達は全体の25%未満という報告もあり、サプライヤー基盤が未成熟であることは明らかです。長年、内燃機関車向けの強固なサプライチェーンを築いてきた日系メーカーにとって、EVシフトで急に「新しい友達(サプライヤー)を見つけろ」と言われているようなもので、そのギャップに苦しんでいます。

3. 労働力不足とスキルギャップ

EV部品の生産には、これまでとは異なる高度な技術とスキルが求められます。しかし、タイ国内では熟練した労働者の不足や、新しい技術に対応できる人材の育成が追いついていないのが現状です。「訓練? 時間ないよ!」と、現場からは悲鳴にも似た声が上がっています。

中国勢の猛追と、政府の”本音”

さらに追い打ちをかけるのが、中国勢の進出です。FTA(自由貿易協定)による関税ゼロの恩恵を最大限に活用し、2025年のEV登録シェアでは中国ブランドが7割超えという驚異的な数字を叩き出しています。BYDの工場開所式は華々しかったですが、長年タイ市場を支えてきた日系メーカーとしては、「うちのピックアップがまだ国民車なのに…」と寂しい気持ちになるのも無理はありません。

政府の「輸出EVは1.5倍カウント!」という柔軟な対応も、一見すると輸出促進策に見えますが、その裏には国内市場の在庫過多を回避したいという本音が見え隠れします。国内需要がまだ十分に高まっていないのに生産義務を押し付けられ、「売れないEV作ってどうするの?」と思わず疑問を投げかけたくなるのではないでしょうか。

このジレンマをどう乗り越える?生き残る企業の戦略

では、この複雑な状況の中、私たちはどのように未来を切り開いていけば良いのでしょうか?

このジレンマを乗り越える企業こそが、次の時代を勝ち抜くことになります。

  • 短期的な対応: 現状では、高精度部品は中国や日本からの輸入で凌ぐという選択肢も必要です。無理に現地調達を進めて品質を落とすことは、企業の信頼を失いかねません。
  • 長期的な視野: しかし、いつまでも輸入に頼るわけにはいきません。長期的な視点で、現地サプライヤーへの技術支援や共同投資を通じて、サプライチェーン全体のレベルアップを図ることが不可欠です。中国勢はすでにバッテリー生産に10億ドル以上を投資するなど、先行投資を進めています。日系企業も、HEV優遇の新政策を待ちながらも、この流れに対応せざるを得ないでしょう。

政府の政策は、まるで「魔法の杖」ではなく「にんじん付きのムチ」のようなものです。現地調達率を上げろと言うけれど、そのための「杖」は貸してくれない。だからこそ、私たち自身が「魔法」を習得し、新しいサプライチェーンを築き上げていくしかないのです。

まとめ:変化を恐れず、未来を切り開く

タイのEV市場は、まさに変革の真っ只中。この変化は確かに私たちに多くの課題を突きつけますが、同時に新しいビジネスチャンスも生み出しています。

2026年以降、このタイの製造業で生き残るのは、まさに「現地調達マスター」になった企業だけでしょう。短期的な対応と、長期的な視野を持った投資が不可欠です。

私たちも、共にこの大きな波を乗り越え、新しい価値を創造していきましょう!

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