タイの選挙制度では日本人の考える民主主義が上手く機能しない理由を考察してみました。
今回の選挙では野党が大勝したのに、軍事政権が特定の団体を政治から排除するために作った憲法のために、選挙に勝っても政権樹立がスムーズに行えない現実があります。
次期首相を決める首相指名選挙では今回の総選挙で選ばれた下院議員500人および上院議員250人の投票で過半数票(376票以上)を得た候補者が首相に選ばれることから、上院議員の動きにも関心が集まっています。
ただ、前進党が最も多くの有権者の支持を得たという事実にもかかわらず、同党が求めている不敬罪を規定した刑法112条の改正を王室尊重の立場から不適切と考える上院議員も少なくないとされ、2~3カ月後に行われる見通しの首相指名選挙でどれだけの上院議員票が集まるのか現時点では不透明です。
タイの民主主義が上手く機能していない理由は複数あります。
一つの理由は政治的な不安定さです。政権の交代が頻繁に起こり、政治的な対立が深まっています。これにより、政策の安定性や継続性が損なわれ、国の発展に影響を及ぼしています。
また、軍事クーデターの発生も民主主義の機能不全の一因です。タイでは歴史的に軍部の関与が大きく、クーデターによって政権が軍部によって奪われることがありました。このような政治的な不安定さと軍部の介入は、民主的なプロセスや政府の信頼性に悪影響を与えています。
さらに、表現の自由や市民の権利の制約も民主主義の機能不全の要因です。メディアや市民社会の活動が制約され、政府の監視や批判が難しくなっています。これによって政府の決定への対話や批判的な意見が抑制され、民主的なディベートや意思決定が妨げられています。
最後に、社会の分断や格差も民主主義の機能不全に影響を与えています。タイ社会は地域や階級の間での格差が存在し、社会的な対立が生じています。これによって政治的な対立や不信感が生まれ、民主主義の価値や原則への共感や支持が欠けることがあります。
これらの要因が複合的に絡み合い、タイの民主主義の機能不全を引き起こしていると言えます。民主主義の健全な発展と機能の確保には、政治的な安定、民主的なプロセスの尊重、表現の自由の保護、社会的な統合の促進など、幅広い取り組みが求められます。
タイの議会と選挙制度にはいくつかの問題点が存在します。以下はその一部です。 1. 政党の制約と多党制の不均衡:タイの政治環境では、政党の設立や運営に対する規制が厳しく、政党間の競争が制約されています。また、政党の力関係が不均衡であり、一部の政党が優位に立つ傾向があります。 2. 選挙の公正性と透明性の不足:選挙プロセスにおいて、公正性や透明性に関する疑問が存在します。選挙の前後における不正行為や不公正な介入の報告があり、信頼性に欠けるとの批判があります。 3. 選挙区の不均衡と代表性の欠如:選挙区の設定において、人口や地域の差異による不均衡が存在し、選挙の代表性が損なわれています。一部の地域や利益グループが過度に影響力を持つことが問題とされています。 4. 賄賂や選挙違反の問題:タイの選挙においては、賄賂や選挙違反の報告があり、公正な選挙環境を損なう要因となっています。これにより、選挙結果の信頼性や代表性が疑われることがあります。 5. 政治家の任命や非民選議員の存在:タイの議会には、政府によって任命された政治家や非民選議員が含まれています。これにより、直接選挙によって選ばれた議員の割合が低くなり、代表性と民意の反映に課題が生じています。 これらの問題点がタイの議会と選挙制度に存在し、民主的な意思決定や政治的な多様性の実現に制約を与えていると言えます。公正で透明性の高い選挙プロセスや議会制度の改革が求められ、市民の意見と代表性を重視した政治システムの構築が重要です。
前進党が連立政権を樹立した場合、タイは再び選挙による政権交代が安定的に続く時代に戻れるでしょうか?残念ながらその見込みは薄いでしょう。
クーデターによる政権交代や国王の政治介入の余地がまだ残されているからです。
2016年にプミポン国王が死去した後も、タイは依然として「国王を元首とする民主主義体制」を掲げてきたからです。現行の憲法の下では、国民が望んでいると判断すれば国軍はクーデターで政治に介入し、国王がそれを承認して国軍に権力を委任する可能性は否定できないのです。
それを防ぐためには、憲法によって国王の権限を制限し、クーデターを違法化して国軍の介入を阻止することが必要です。こうした措置がなければタイの選挙民主主義は自立できず、国王や国軍の許容する範囲で限定的に行われるものに留まり続けるはずです。
2020年の反政府運動が主張したように、王室や軍部を含む政治体制改革なくしてタイの選挙民主主義は維持・安定することはないでしょう。
2020年に「新未来党」が憲法裁判所から解党を命じられた事例があるので、今回の前進党も同じ運命を辿らないことを願うばかりです。
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