南国の楽園で稼ぐ「情報商人」たち:日本人アフィリエイター・インフルエンサーの生態系

いやはや、世の中、本当に便利になったものですね。かつて「地球の歩き方」を片手に、灼熱のバンコクの路上を汗だくで彷徨い、ようやくたどり着いたMBKでニセモノのTシャツを値切っていた時代が、まるで遠い過去のようです。
今や、エアコンの効いたコンドミニアムの一室で、MacBook Proをパタパタさせながら、南国のまばゆい光を背景に「月収〇〇万円達成!」「南国でノマド生活エンジョイ中!」なんて発信してる方々が、わんさかいるわけですから。

何を隠そう、タイは、世界中の「フリーランス」や「ノマドワーカー」、そして「アフィリエイター」「インフルエンサー」を自称する人々にとって、まさに理想郷。物価は安い(と言われている)、飯は美味い(これも諸説あり)、そして何より、日本から「逃げてきた」人たちにとって居心地の良いユルさが、この国の魅力なのでしょう。

私たちのような古き良き(?)在住者から見ると、彼らの出現はまるで、新種の昆虫が突如として大繁殖を始めたかのような、ある種の驚きと、そして少々のアイロニー(皮肉や批評性)を伴います。彼らは、スマホ一台、PC一台で世界と繋がり、そして「稼ぐ」というミッションを掲げて、今日も情報の大海原にコンテンツという名の釣り糸を垂れているのです。

「意識高い系」と「バンコクライフ」の夢幻

彼らの発信する情報は、実に多岐にわたります。

  • 「タイ移住のメリット・デメリット」
  • 「バンコクおすすめルーフトップバー完全攻略」
  • 「タイで起業するならこれを見ろ!」
  • 「海外ノマドの持ち物リスト」
  • 「〇〇式!SNSでフォロワーを爆増させる秘訣」

内容はともかく、その熱量と「成功」への執念たるや、感服せざるを得ません。彼らの多くが共有するキーワードは、

「自由」
「場所にとらわれない働き方」
「好きなことを仕事に」
「脱サラ」といった

実に耳触りの良いフレーズです。まるで、全員が同じテンプレートを使って文章を生成しているかのように、似たような言葉がウェブのそこかしこに溢れています。

そして、彼らのコンテンツに必ずと言っていいほど登場するのが、キラキラとしたタイやバンコクライフの描写です。青い空、ココナッツジュース、優雅なプールサイドでのPC作業、そして高級感あふれるコンドミニアムの部屋。彼らの発信する写真や動画は、まるで一枚の絵葉書のように美しく、そして現実離れしています。

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もちろん、彼らが本当に努力して、自由な生活を手に入れたのであれば、それは素晴らしいことです。しかし、その裏側で、彼らがどれだけ「裏技」や「誰でも簡単に稼げる」といった甘い誘い文句を使い、時には情報弱者をターゲットにしているのかと考えると、少々胸がざわつきます。彼らの「自由」の代償は、もしかしたら誰かの「夢破れた」姿の上に築かれているのかもしれません。

SEOとアルゴリズムの奴隷たち?

彼らが発信する情報の背後には、常にGoogleのアルゴリズムSNSのトレンドがちらつきます。彼らは決して、純粋な知識欲や情報共有の精神だけで記事を書いたり、動画を撮ったりしているわけではありません。
彼らの指先は、常にキーワードの選定、競合サイトの分析、そして「どうすれば検索上位に表示されるか」というSEO(検索エンジン最適化)の技術に支配されています。

彼らのブログや各種のSNS、YouTubeチャンネルは、まるで金儲けのためだけに最適化された機械のようです。

「タイ ビザ」
「バンコク コンドミニアム」
「タイ 仮想通貨」

といったキーワードを片っ端から網羅し、その情報を求めてたどり着いた人々に、アフィリエイトリンクを仕込んだ商品やサービスを売りつけようとします。

彼らは、まるでアルゴリズムの奴隷のように、日夜、数字と向き合っています。「このキーワードで順位が落ちた!」「あの競合が新しい記事を上げた!」「YouTubeの再生回数が伸びない!」と、彼らの頭の中は、常にビジネス指標でいっぱいです。彼らが謳う「自由なライフスタイル」とは裏腹に、実際には見えない支配者(アルゴリズム)の命令に忠実に従っている姿は、実にアイロニカルではありませんか。

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「情報商材」と「成功者のメソッド」の販売

彼らが本当に売りたいのは、実は彼らが「成功した」というそのメソッド自体であるケースが多々あります。
ブログで稼ぐ方法、YouTubeでフォロワーを増やす秘訣、タイで起業して成功するまでの道のり――。
一見、有益な情報を提供しているように見えて、最終的には高額なオンラインサロンへの入会、限定コミュニティへの招待、あるいは個人コンサルティングといった形で、彼らの「知識」や「ノウハウ」と称する情報商材に誘導されることが少なくありません。

「この方法で私も稼げるようになりました!」という体験談は、まさに彼らの強力な武器です。しかし、その成功が本当に普遍的なものなのか、再現性があるのかについては、ほとんど語られることはありません。
彼らは、希望に満ちた初心者や、現状に不満を持つ人々が持つ「稼ぎたい」「変わりたい」という純粋な願望を巧みに利用し、そこに「簡単に成功できる秘訣がある」という幻想を植え付けるのです。

そして、その「成功」を手にするためには、投資が必要だと説きます。もちろん、自己投資は大切ですが、その「投資」が、彼ら自身の懐を潤すためのものである場合も少なくないでしょう。
情報商材の中身が、インターネットで無料で手に入るような基本的な情報ばかりだったり、あるいは何の役にも立たない「精神論」が中心だったりすることも珍しくありません。

ノート型パソコンの前で微笑みながら打ち込み作業する日本人女性のインフルエンサー4 1280

「偽りの専門性」と「ペルソナ」の構築

彼らの中には、特定の分野でいかにも専門家であるかのように見せかける巧妙なブランディング戦略を用いる者もいます。
例えば、タイのビザについて語るアフィリエイターが、実は単にネットで調べた情報をまとめただけで、自身はビザ申請のプロフェッショナルではない、といったケースです。しかし、SNSのフォロワー数やウェブサイトの見栄え、そして自信に満ちた語り口によって、あたかも権威があるかのように見えてしまうのです。

ここで特筆すべきは、彼らの「タイの専門家」気取りです。
タイに数年も滞在しているにもかかわらず、タイ語の読み書きはもちろんタイ語を流暢に話せないといったことはザラ。
にもかかわらず、バンコク市内のごく限られたエリアの後追い情報、それも日本人向けのスポットばかりを「タイの情報」や「タイの話」として発信している例をよく見かけます。
まるで子供だましですが、それに魅力を感じて「いいね」やフォローしているかわいそうな日本人が多すぎるように思えるのは、私だけでしょうか。

彼らは、タイの文化の深層や、地方の暮らし、あるいは政治や社会問題といった、言語の壁を越えなければ見えてこないリアルには、ほとんど触れようとしません。なぜなら、それでは「キラキラした成功」のイメージが崩れてしまうから、あるいは単に、その話題ではお金にならないコンテンツだからかもしれません。

彼らは、自分自身を「理想の成功者」というペルソナ(表向きの人格)として演出し、常にキラキラした側面だけを見せようとします。失敗談や苦労話は、せいぜい「乗り越えた感動ストーリー」として消化されるだけで、本質的な困難や、ビジネスの裏側にある不都合な真実は語られません。
なぜなら、彼らの商品である「成功」のイメージが崩れてしまうからです。
この「偽りの専門性」と「作られたペルソナ」によって、多くの情報弱者が彼らの甘い言葉に乗せられてしまう構造は、実に皮肉的です。

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「コバンザメ」たちの相互依存とタイという国の「利用」

彼らは、決して単独で活動しているわけではありません。SNS上では、互いに「いいね」を押し合い、コメントを付け合い、時には互いのオンラインサロンや情報商材を「おすすめ」し合う、一種の共生関係のようなネットワークを築いています。

まるで、巨大なクジラ(アルゴリズムや市場)に群がる小さなコバンザメたちが、互いに身体を擦り付け合い、餌(利益)を分け合っているかのようです。
この「馴れ合い」とも言える関係は、彼らの閉じられたコミュニティの中で、さらに彼らの「成功」という幻想を強化し、異論を排除するエコーチェンバーを形成していきます。

そして、タイという国は、彼らにとって、あくまでも「安く生活でき、かつ発信ネタにしやすい都合の良い場所」として利用されている側面も否めません。
彼らがブログやYouTubeで語るタイの魅力は、多くの場合、欧米的な「エキゾチシズム」の視点から描かれたものが多く、この国の文化や人々に本当に敬意を払っているのか、深く理解しようとしているのか、疑問を感じること多々あります。

彼らが紹介する「穴場」や「お得情報」が、結果的にローカルな生活を乱したり、観光地化を加速させたりすることもあるわけです。タイは彼らの「舞台装置」であり、そこで得られる情報や体験は、すべて「コンテンツ」へと昇華されていくのです。

日本人女性のインフルエンサーの集まり 1280

光と影、そして未来

もちろん、アフィリエイターやインフルエンサーの全員がそうだというわけではありません。
中には本当に価値のある情報を提供し、健全な形でビジネスを成功させている人もいるでしょう。しかし、現状、多くの彼らが作り出す情報の海は、利益追求の論理に大きく支配され、ユーザーにとっての「情報の質」や「公平性」が見失われがちです。

彼らの存在は、現代社会における情報のあり方、そして資本主義の「影」の部分を浮き彫りにしています。
私たちは、彼らが作り出すキラキラとした表面に惑わされることなく、その裏側にある意図や、情報の真偽を冷静に見極める力つまり「情報リテラシー」が、これまで以上に求められています。

彼らが南国の地で今日もカチャカチャとキーボードを叩き、新たな「稼ぎ方」を発信している傍らで、私たちは静かに、彼らの情報が本当に私たちにとって価値あるものなのかを問い続ける必要があるでしょう。
さもなければ、いつの間にか、彼らの作り出す「夢」の餌食になり、財布も心も空っぽになってしまうかもしれませんからね。 (笑)

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